『非色』有吉佐和子 角川書店 1967年/11月 [読書 現代小説]
評価 ★★★★★
<内 容> 出版社/著者からの内容紹介
終戦直後、私は勤め先の駐留軍キャバレーでニグロのトム伍長を知って結婚。
初児のメアリを白雪姫と呼ぶ彼に黒い肌を持つ者の深い悲しみを感じた。
人種偏見を鋭く凝視した力作。(日沼倫太郎)
<感 想>
民族間の差別、それは暴力だ。
DNAに刻み込まれた抗いがたい暴力。
ハーレムの描写を読んでつくづくそう思った。
(今は当時より改善されているのでしょうか?)
そんな暴力に、主人公は負けない。
自分と家族の幸せを手に入れる為たくましく生きる。
しかし、彼女が最もつらかったのは
自分の中に同じ「暴力」を認めたときではないでしょうか?
ラスト、彼女が『ああ、私は確かにニグロなのだ!』そう“気付き”、
新たなる一歩を踏み出す場面に深い感動を覚えた。
巧みに配された登場人物、卓越したストーリー、訴えかけてくるテーマ、
どれをとっても素晴らしい作品です。
『クライマーズ・ハイ』横山秀夫 文藝春秋 2003/8 [読書 現代小説]
評価 ★★★☆☆
<内 容> 出版社商品紹介
85年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちの悲喜こもごも。
上司と部下、親子など人間関係を鋭く描く力作。
<感 想>
「企業小説」として読むには最高におもしろいです。
新聞記者から見た日航ジャンボ機墜落。
その報道のあり方を巡って組織と対立する「個」としての記者たち。
とりわけ、初めて現場を目の当たりにした神沢が印象的だった。
しかし、衝立岩の登攀シーンって必要でしょうか?
過去と現在が交互に語られているので、だんだん邪魔にすら感じます。
これは「過去=墜落からの一週間」が臨場感に溢れ、秀逸であるのに対し
「現在=登攀」の描写があまりに稚拙すぎるから。
(そもそも17年ぶりでしかもゲレンデしか経験ない中高年が、いきなり衝立岩に
登れるもんなの!? 挑戦する気持ち、だけでも小説的にはOKだと思う)
冒頭、土合駅の階段から始まるシーンがとても良かっただけに本当に残念です。
これは読んだ方への質問なのですが…
最初、土合駅から衝立岩に向かう途中での安西息子の言葉。
「父さん、やっぱり北へ向かいましたね。」
これってどういう意味なんでしょう??
二ヶ月前に亡くなるまで、安西父は17年間寝たきりだったんですよね?
煙が北へ向かったということなんでしょうか?
どなたか判る方、教えて下さいませ。お願いいたします。
『12皿の特別料理』 清水義範 角川書店 1999/12 [読書 現代小説]
評価 ★★★★★
<内 容>
料理下手の新妻を落ち込ませる、夫の絶品ぶり大根。
左遷された会社員が取り憑かれたように打つ本格蕎麦。
そんな泣き笑いをたっぷり詰め込んだ12品の料理小説集。
<感 想>
重いテーマの本を立て続けに読んで、なんだかグッタリしていたところ
無性にこれを再読したくなって、すべり込みセーフで図書館でゲット。
おもしろくって2時間で読みました。
ひとつひとつの料理に、泣いたり笑ったり膝を打ったり。
トゲトゲしてた頭の中がやわらか~く沈静された気がします。
東海林さだお氏の装丁、各章ごとの扉絵がまた素晴らしい!
彼の描く食べ物はどうしてあんなにおいしそうなんでしょう~。
おおむね一人称で描かれた短編集ですが、ところどころでナレーター役(?)として
筆者が顔を出します。上記の「ぶり大根」でも
“針しょうがまでやることはなかった”なんてツッコんでて笑った笑った。
おにぎり
ぶり大根
ドーナツ
鱈のプロバンス風
きんぴら
鯛素麺
チキンの魔女風
カレー
パエーリヤ
そば
八宝菜
ぬか漬け
12皿の悲喜こもごも、ぜひオススメです~(*´ー`*)
各料理の作り方も文中にありますよ。
『破裂』久坂部羊 幻冬舎 2004/11 [読書 現代小説]
評価 ★★★☆☆
<内 容> 出版社 / 著者からの内容紹介
「新世紀版『白い巨塔』!」「まさに悪魔の計画書」「超新星の大胆さ」と各書評家が絶讃!
大学病院の実態を克明に描き、日本老人社会の究極の解決法まで提示する、
医療ミステリーの傑作!
<感 想>
冒頭の「痛恨の症例」だけでも十分興味深いテーマなのに、
読み進むうちに出るわ出るわ。
医療裁判、尊厳死問題、汚職事件と盛りだくさん。
もう少しテーマを絞っても良かったのでは、と思います。
あと、登場人物がみな薄っぺらい感じがしました。
それでも十分おもしろく読めましたが。
医者である久坂部氏が、一貫して問いかけてくる高齢化社会問題。
前作『廃用身』ではその解決策として
「介護負担を減らす為、動けなくなったお年寄りの手足を切断する」という
衝撃のケアが描かれていた。これを是か非かと問われれば大声でNOと言える。
しかし今回の「プロジェクト天寿」には、
なるほどそういう方法があるのか、と唸ってしまった。
考えようによっては、よっぽどこっちの方が非道なのに。
唾棄すべき提案だ!と一概に言えない自分がいます…
『さまよう刃』東野圭吾 朝日新聞社 '04/12 [読書 現代小説]
評価 ★★★★☆
<内 容> 著者からの内容紹介
蹂躙され殺された娘の復讐のため、父は犯人の一人を殺害し逃亡する。
「遺族による復讐殺人」としてマスコミも大きく取り上げる。遺族に裁く権利はあるのか?
社会、マスコミそして警察まで巻き込んだ人々の心を揺さぶる復讐行の結末は!?
<感 想>
タイトルの『さまよう刃』とは何に向けられた誰の刃なのか。
様々な意味が込められているように思う。
カイジらに向けられた長峰の復讐心。
少年法に向けられた警察の逡巡。
そして、犯罪被害者の遺族を切り刻む少年法そのもの。
これら複数の“刃”がぎらつき彷徨う様子が、各章ごとに視点を変えながら
実にリアルに描かれている。
「あなたならどうする?」全ての読者に究極の決断を迫る一冊です。
『讃歌』 篠田節子 朝日新聞社 '06/01 [読書 現代小説]
評価 ★★★☆☆
<内 容> 「BOOK」データベースより
テレビ制作会社で働く小野は、ある日耳にしたヴィオラ奏者の演奏に魂を揺さぶられ、
番組制作を決意する。天才少女の栄光と挫折を追ったドキュメンタリーは好評を博し、
園子も一躍スターになるが…テレビと音楽をめぐる新スタイルの社会派小説。
<感 想>
見て触って確かめることが出来ない音楽。
だからこそ人々の心を打つ音楽に、優劣はあっても偽物などない。すべて「本物」なのだ。
ヒロインの様々な“自己演出"を知ってもなお、タイトルの『讃歌』は
彼女に向けられたものと思える。
と感じるのは、私が芸術を“享受するだけ”の人間だからかもしれない。
“奏でる”側の人はこの小説を読んでどう感じるんだろう?
『女という病』中村うさぎ 新潮社 '05/08 [読書 現代小説]
評価 ★★★★☆
<内 容> まえがきより
被害者・加害者を問わず、「女」が主役と思われる事件を取り上げて、
そこに渦巻いている「女の自意識の問題」すなわち「女という病」を解析
<感 想>
佐世保小6同級生殺人事件他まだ記憶に新しい13の事件を取り上げている。
しかしまえがきで断わっているように、これは「彼女たちの物語」という体裁を
取りながら、実は「中村うさぎの物語」である。どこを切っても、中村うさぎ。
>自分に彼女たちが憑依しているのか
彼女たちに自分が憑依しているのか、わからなくなってしまう
「まえがきより」
しかしこの“イタコ”状態が圧倒的なリアリティを生み出すことに成功している。
中村うさぎが13人の彼女たちと私(かめきち)を繋げる。
こんなのって、中村うさぎにしか出来ない。
中村は「男が悪い」「社会が悪い」とありがちな社会批判をしていない。
おそらくフェミニズムとは全く関係ないスタンスで女を描いている。
よって事件の女性たちに対しても、安直な哀れみや同情はない。
そんな安っぽいものだったら、最後まで読めなかったと思う。
『千日紅の恋人』帚木蓬生 新潮社 '05/08 [読書 現代小説]
評価 ★★☆☆☆
<内 容> 著者からの内容紹介
半ば諦めていた。このままずっと独りだと――。三十八歳バツ2。
父から継いだ古アパートを管理する時子の前に、その人は現れた……。恋と人生の感涙物語
<感 想>
起承転結がはっきりしているだけが小説じゃない、こういう淡々とした
日常を描いた話があってもいい…と、わかってはいるけれどそれにしても
ちょっと読み応えが無いなぁと思う。有馬という人もよく見えてこないというか。
橋田先生あたりの脚本でドラマ化すれば、丁寧な良いドラマになるかも。
善次郎さんのお葬式のシーンは心に染みた。
現時点で、ワタシの帚木蓬生トップ3は
1.エンブリオ
2.アフリカの瞳
3.臓器農場
でしょうか。この人の著書は医学もの・戦争もの・恋愛ものと
大きく3つのジャンルに分けられるようだ。
医学ものはとりあえず全部読みたいと思う。
『オデパン』 藤本ひとみ 文藝春秋 '04/10 [読書 現代小説]
評価 ★★★★☆
<内 容> 「BOOK」データベースより
超高級パラサイト“オデパン”族の華麗な生活。
カッコよく生きる彼らにも悩みはある。
日本上流社会の内幕と葛藤を描くスーパー・ラブストーリー。
<感 想>
「チェックメイト」までは文句なしにおもしろい!
贅を尽くした大人の遊びの中で“お行儀の悪い女狐”を狩る様子は、
底なしに意地悪で、華麗で、読んでてゾクゾクした。
「花酔い」からちょっとトーンダウン。
どうしてそんな覚悟のない恋をするかなぁと主人公にイライラしたり。
(ちなみに主人公が沖田に惹かれていく様は、林真理子の
『戦争特派員』をちょっと思い出した)
でも全体的におもしろかったです。オススメ!
これは初・藤本作品。
失礼ながらワタクシ、藤本ひとみという作家を全く知らなかった。
何の予備知識もなく、本屋さんにあった『オデパン』を見て
“あ、これ絶対おもしろい”と直感的に思いました。
逆に「日本上流社会の内幕と葛藤を描くスーパー・ラブストーリー」だと
知っていたら手に取らなかったと思う。
ごくごく稀に、本とのこういう幸運な出会いがあります。
東野圭吾の『白夜行』もそうだった(もうずいぶん前ですが)
本の神様、ありがとう。
『ガール』奥田英朗 講談社 '06/01 [読書 現代小説]
評価 ★★★★☆
<内 容> 著者からの内容紹介
30代。OL。文句ある?
さ、いっちょ真面目に働きますか。
キュートで強い、肚(はら)の据わったキャリアガールたちの働きっぷりをご覧あれ。
<感 想>
“この男は、女房とホステスと部下しか女を知らない”「ヒロくん」より
これ、周りの一部の男性に対してモニョってた気持ちを一言で言い表してくれました!
彼らに対して“女房”にも“ホステス”にもなりきれない自分に悩んでいたけど、
気持ちがちょっとラクになりました。
他の短編にも「わかるわかる」と膝を打ちっぱなしです笑
それは自分がまさにこの短編集のストライクゾーン、30代OLだからだと思う。
『最悪』や『邪魔』から奥田作品に入った男性はまた違った評価かも。